「価値観」についてのダイアローグ

対談

濱中伸幸 N)今回は「か」
お互い会社を辞めて独立した身だけれど、会社員と今では大きく変わったのが「価値観」
価値観について思うこと話したら色々出てくるんじゃない。

多屋光孫 M)そうだね。
会社にいた時の自分と今は全く違う環境で仕事をしているけれど、仕事に対する価値観とか優先順位とかプライド、絶対譲れないポイントといったものはかなり違っていると思う。

N)それはどういうこと?

M)私の場合、企業にいる時は、会社に隠れてこそこそ創作活動や出版をやっていたので(バレないよう?)目立たないよう、クリエイティブな部分は、なるだけ自分をさらけださない様、周りを気にしていた気がする。
当時、メインの給料をもらっていた方の会社の仕事は、なるだけ低カロリーに抑えようとしていた。
そのくせ、会社やクライアントに要求されたことは、気が進まなくても、やる気のあるふりをしていたかも。
あと、会社にいた時は、周りの目を気にする気にしないとかいろんなものをすごく感じていたなあ。
自分の突拍子も無いクリテイブな部分を曝け出すことも「あいつ趣味人やから」と一蹴されそうで躊躇していた。
今は、自分を曝け出さないと逆に生活が出来ないけど。

N)住んでいる世界が違うってことかなあ。

M)例えば、保守的な上司は何かを判断する際に、今までに前例があるかどうかを気にする。

N)「前例はあるのか?」に加えて、「エビデンスはあるのか?」も言われる言葉。



M)日本の企業では新しいことをするのを恐れるというか苦手なのかもしれない。
今までうまくいってきたものを変えたり、手放したりすることを極度に恐れる。
色々と問題があるけれど終身雇用制度は依然として存在する。

N)大きな会社ほど、変化を嫌う。変化しようにも身動きが取れないのかもしれない。
失われた20年、30年と言われるけれど、アパレルに関してはこの期間、「ユニクロ」がダントツで成長している。柳井社長がアパレル業界の優秀な人材をスカウトしまくって「フリース」のヒットを皮切りにヒット商品を連発して、世界規模まで成長させたのは素晴らしい。
「ユニクロでいいや」という価値観が「ユニクロがいい」という価値観に変えてしまった。

N)自分の会社員時代の経験で言えば、事業の3か年計画を立てる際も、
対前年1.5%増の売上計画といった少しでも右肩上がりの数字を並べる
のだけれど、経営資源の投入もない中ではどうしても戦術レベルの行動
にとどまっていた。

M)事業計画は絶対右肩上がりが前提(汗)予定調和を求める儀式的な要素も入っているよね。

N)本音と建前。建前上そうせざるを得ない計画値を立てる様じゃ結果は出ないよね。
会社を立ち上げて失敗だったと思うのは、会社員時代の思考そのままだったので、初年度から売上達成を目指した経営資源の配分をしたこと。
売上が欲しくて、結構な広告宣伝費を投入してしまった。
創業から数年経ってようやく気づいたのが「会社にとって大事なのは利益であって売上の規模じゃない」ってこと。
一番大切なのはお客様づくり。お客様がいないのに売上も利益もないからね。
最初から優良顧客を持った百貨店で働いていたから、顧客獲得がいかに難しいかを身をもって体験することになった。

M)自分は独立して8年目になるけど、「こういうのやれますか?」という依頼が来たら、即「やれます」と返事をしてしまう。
できるがどうかは後から考えれば良いという思考は会社員時代の仕事のクセなのかもしれない(笑)

N)僕も会社員時代は「できます」「やります」の返事を心がけていたな。

M)それって、いい意味でも悪い意味でもサラリーマンの習性なのかもしれない。他人の行動を様子見しながら、「検討します」なんて言うやつにはファイティングポーズが無いなあって、イラッとしてしまう。
新しい仕事の依頼についての違いで言えば、今はワクワクした気持ちが先に立つけれど、会社員時代は失敗したらどうしようという念も湧いてザワっとした中で仕事をしていた気がする。
独立してからは、新しいことに挑戦するのもしないのも自分で決めることができる。
改めてありがたさと喜びを感じるよ。上手くいかなくて落ち込むことはもちろんあるけど、失敗しても自分で決めたことだから納得できることはあるかな。

N)今はもうやっていない中国からの輸入ビジネスの話。
輸入はUSドルで決済するのだけれど、為替レートの変動で利益の増減が激しくなってきてからは、毎日冷や冷やして為替レートを見ていた。
自分で決められないことで、為替レートほど怖いものは無いと思う。輸入決済時に円安に触れると利益が吹っ飛ぶんだ。
幸い急激な円安相場になる前にビジネスを終了することができたからよかった。
今もやっていたら大きな借金を抱えることになっていたかも。
自分で決められないことに手を出すのはリスクが大きいから、自分で決められることだけに絞っていくと、今後は他者との関わりが無くなっていく。
輸入ビジネス終了と入れ替わるように専門学校の非常勤講師の話が来て、社会との関わりをなんとか保つことができている。

M)絵の仕事については、とてもやりがいのある仕事と日銭を稼ぐって言えば語弊があるかもしれないけれど、依頼されるものを相手の要望にあわせて絵にしていく仕事がある。
絵本の制作に関しては、自分がやりたい奔放な表現と読者が理解できるか観点での表現との間でいつも葛藤がある。
自分の価値観を打ち出したい欲求とやりたい放題やって相手に伝わるかどうかのバランスをいつも考えながら悩んでいる。

M)絵本作家として編集者とのやり取りに関して自分の中で変化がある。
以前のスタンスは、『私はこういう作品はどうでしょう』という枠の中から選んでもらう形式をとっていたけれど、最近は出版社や編集者の意向を聞いて、その中で浮かび上がってきたものからと自分のやれることを織り込んだ内容で提案するようにしている。
そうすると、担当者とも共感が深まり盛り上がって作品の制作に入っていけた。
モノづくりって孤独な作業であると思いがちだけど、相手のニーズや要望、求める価値観をきいて共感しながら作り上げていくことも大切だなあと感じている。

N)プロダクトアウトとマーケットイン。

M)そうそう、会社員時代マーケティング関連の部署にもいたことがあって、その頃は、そんなことばかり考えていたのを思い出したよ(笑)
話は変わり、占いだかスピリチュアルな話になってしまうけれど、今は土の時代から風の時代の移行期だってよく聞くよね。

N)ここ数年YouTubeやSNSなどで見るワードだね。

M)時代は大きく変化している象徴として、ピラミッド構造の大きな組織の中で働く働き方から、自立して個人として働く時代にということが言われている。
働き方改革や副業解禁など、会社との関わりも変化。マスメディアのテレビ、雑誌、新聞の力が段々と弱くなって、YouTube、インスタグラム、X (旧ツイッター)、TikTokなど個人で発信できるメディアが勢いを増している。

N)世界情勢もすごい。ロシアとウクライナ。イスラエルとパレスチナ。

M)最近読んだ本で、R国では、身近な人が気づかないうちに突然身柄拘束されて突然いなくなる事って良くあるらしい。
すっかり日常茶飯事で、そのことを受け入れているわけではないんだろうけど、いちいち大騒ぎしない。

N)国が違えば生きている価値観も大きく異なるよね。

M)国の違いはもちろん、今あるものがずっと続くわけではないと言う時代の変化による価値観の変化も大きいと思う。

N)2人とも昭和40年代の幼少期だから、まさにテレビっ子。テレビの話はまた今度するとして、我が家のテレビは誰も見ていない。画面にはネットフリックスやAmazonプライム、YouTubeが映っている。

M)「学校であの番組見た?」って言う会話もない時代になっているのだろうね。
YouTubeで見た番組の関連が個人別におすすめ動画として出てくるからね。

N)YouTubeで何かを検索すると、それに関連する動画が山のようにおすすめ動画に上がってくるよね。そういやパソコンの画面を見ている時間が圧倒的に増えた。映画もネットで見るし、本も電子書籍で読む。

M)本屋の息子として言いたいこと。本屋について語ってもいい?
 「なぜ本屋が大切か?」それは、本屋に行けば今現在が網羅された本が陳列されているから。コーナーごとに見てまわれば、今の本が一覧できるのが強み。
多種多様なジャンルの書籍が編集分類されている。よい本屋はその編集分類陳列が素晴らしい。
個人個人の興味のあるなしで画面が変化するわけでもなく、今、世の中の人が何に興味を持っているか(世の中で何が起きているか)知る上でも、本屋は重要な役割の一端を担っていると思う。

N)専門学校の講義で、定期的に大きな本屋さんに行って並んでいる本を観察することを薦めているよ。自分もまだまだ知らないことだらけ。今になって知ること、学ぶことが楽しくなってきた。

M)絵本制作でいえば、いろいろな価値観をもつ人々に新たな価値の提供ができたら最高だ。

N)いろいろな価値観を持っている人が何故か、パターン化した毎日を送っている。
 毎朝学校に行って、授業を受けて、部活して、塾に行って、帰って寝る。
 毎朝会社に行って、仕事をこなして、残業して、居酒屋行って、帰って寝る。
学校教育も会社生活も、語弊があるけれど「言われたことだけをすれば良い」という空気の中で過ごすよね。和をもって尊しの精神で生きているから、輪から出ると何していいのかわからないのかも。
「自由に生きる」って言葉に憧れるけれど、みんなやったことないから。
学校や会社という縛りからの逃走が、不登校とニートを生み出しているのかもしれないね。

M)日本人は記号化され、象徴化されたモノに価値を見いだすきらいがある。東大、京大。医者、学者。政治家、テレビの司会者。なぜか偶像化して崇めてしまう。偉い凄いものの価値を一元化しようとしている空気がある。
これも、日本以外では単なる職業にすぎないからさほど重要な価値観じゃない。

N)お互い50半ばだけれど、もっと自由に発想するには、今までの価値観を1から見直す必要がまだまだあるってことだ。

M)『常識を疑え』は自分の中の常識という価値観を見直さないとね。


N)そのためには、多屋さんは1週間に1度何もしない日を作った方がいいんじゃない。

M)アーティストデイと言われるやつね。

N)アホなこと、無駄なことしか考えない日。



M)「今日は〇〇について考えてみよう」って一見くだらないことに本気で取り組む。
やらなきゃいけないことは粛々と楽しみながら、全く違う行動をする日を意識的に作ることで、全く新しい価値を生み出せるかもね。

N)価値観を固定しないという価値観。

M)次のページ何が出てくるかワクワクする絵本のイメージだ!
 対談すると創作意欲が湧いてきたよ(笑)


多屋 光孫(たや みつひろ)絵本作家・挿絵画家。和歌山県田辺市出身。3歳より田辺市の洋画家、故益山英吾氏の洋画研究所で絵を学ぶ。実家は本屋(南方熊楠ゆかりの多屋孫書店)。2015年8月まで二十ん年、普通に会社員(海外営業・広告宣伝など)をやっていたが脱サラし画家活動を開始。一般社団法人 日本出版美術家連盟理事(事務局長)

濱中 伸幸(はまなか のぶゆき) ブランドクリエイター。和歌山県田辺市出身。実家は紳士服店。元百貨店婦人服バイヤー。2011年株式会社ハッピーアイ設立。エンカラージオンラインショップ企画運営。ファッション専門学校非常勤講師


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